現代人間学部 心理学科

#6 性格テストを解剖する ―心理テスト入門―

2017年09月12日

心理テストとは
心理学を志望するきっかけとして、「心理テストが好き」という声をしばしば聴きます。テレビや雑誌などでもよく取り上げられていますね。特に性格テストは「私って結構**な性格なんだ」「今の彼氏とは相性がいい」などと新しい自分に気づいたり、解説を見て「まさに私!見透かされているみたい」と驚いたり。話が尽きませんね。
人の“個人差”を知るために、課題や質問を人に与え、その反応を行動としてみるために開発されてきたのが心理テストです。見るものは知能や性格、適性や態度など幅広く、たとえば性格についてならば、「普通よりとってもかしこい」とか「誰よりもやさしい」というふうに高い-低いといった得点の程度で表現したり(特性論)、「攻撃タイプ」「草食系」などという風にタイプや系統でカテゴリ分け(類型論)したりして、表現しようとします。

 心理テストのしくみ

性格テストはおもしろい・・・けど?
ところでみなさんは、自分で、あるいは友だちと、テレビや雑誌の性格テストをしてみて、結果にどんな感想を持ちますか?
「あたってる」と思うこともあれば、「意外だなあ」「前と結果が違う」といった違和感を感じることもあるでしょう。
心の中は見えないので、テストでちゃんと測れているのか確認するのは難しいことです。正確に測れているのかについては「信頼性」、見たいものを見れているのかについては「妥当性」と言われ、現場で実際に用いられているような心理テストは、これを備えたものを使う(標準化テスト)ことが原則です。ちまたにあふれている性格テストの中には、面白いけれどもそういうチェックがされていないものもあり、注意が必要です。


「当たっている」感覚はどこからくる?
模擬授業では、「心理テストを解剖してみよう」ということで、いくつかのワークをしてみました。
まず、「金魚鉢に足りないもの」をエサや水草といった4つの選択肢の中から1つ選んでもらいます。実は、この心理テストはどれを選ぶかによって、「あなたの恋が成就しない理由」がわかる、ということになっています。
一方で、自分の対人関係についてアンケート形式のテストをしてもらいました。
 
 みなさん、熱心に取り組んでくれました

「A エサ」を選んだ人は「相手の話を聞かない」から恋が実らない、という解釈とされているのですが、それを聞いて「たしかにそうだ」と思う人もいれば、「そんなことはない」と思う人もいます。
「当たっている」と思うならこのテストは正しい=妥当性があるのかもしれませんし、「違う」となればテストに妥当性がないか、あるいは、自分が自分のことを誤って理解していることになります。

そういったことを考えながら、ここでは社会心理学で提唱されている「バーナム効果」(ミール、1956)を紹介します。
これは、誰にでも該当するような、あいまいで一般的な性格を表す記述を、自分に当てはまる正確なものと受け止めてしまう現象をいいます。ちまたの性格テストの解釈には、こういった表現がなされていることも多く、それが「当たっている」という感想を引き出す、とも言えます。

“よい”性格テストを作ってみる
こんな風に述べていくと「まやかしじゃないか」と思われがちですが、一方で妥当性や精度を上げていくための方法も考えられます。
たとえば、性格テストで得られた結果を客観的な事実と付き合わせる方法です。例えば、これから100回恋愛をして、100回失恋して、なぜダメだったのか元カレ100人に聞き回ってデータを集め、初めの金魚鉢テスト結果とつきあわせる…
理屈では成り立ちますが、その前に生活が破綻するのでやらない方がよいですね。

他の方法として、「恋愛が成就しない対人関係」に関わる性格特性や態度などについて、さまざまな角度や領域から捉え、それを文章や項目にして質問紙形式の「性格テスト」にしていく、さらに仮に出来上がったものを「標準化」という信頼性や妥当性を確保する手続きを踏んでいく方法もありえます。

心理テストで得られた結果が“意味ある”ものにするには、とても手間暇がかかります。大学の授業では、そういった方法についても学んでいきます。

心理の専門職として心理テストを扱う
最後に、実際に使われている性格テストの組み立てを紹介しました。先に述べた特性と類型という2つの視点を活かして、特性論で個々人の細やかな差を説明しながら、類型論で全体像を捉えるという二段構えの方法です。

 二段構えで性格を捉える

大学では、技術的というだけでなく倫理的にも“ちゃんと”心理テストを扱える専門家になっていくためにさまざまな角度から学びます。
ファッション雑誌の性格テストを見て、高校までのように無邪気に楽しむことはできなくなってしまうかもしれませんが、裏を考えるようになることでもっともっと面白くなるはずです。


【関連書籍】 前田京子 2013 人生をHAPPYに!ホンネがわかる心理テスト 西東社
       渡部洋 1993 心理検査法入門―正確な診断と評価のために 福村出版


 報告:伊藤 一美 (2017/8/20 OC模擬授業より)

  


Posted by 京都ノートルダム女子大学心理学科 at 06:23さいころ講座

#5 こころのかたちは? ―心理カウンセリングを体験する ―

2017年09月12日

はじめに
「ひきこもり」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。
私はこの10年ほど「青年期のひきこもり」に取り組んできました。また、「がん患者」の支援にも長く携わっています。この2つのテーマはかけ離れているように見えますが、いくつか共通点があります。
その一つは挫折体験です、また、絶望感を抱くのも共通しています。
このような挫折の苦しみを和らげ、絶望から希望を見出して、新たなチャレンジに踏み出すサポートをするのは心理カウンセリングの役割です。

がん患者さんとご家族の支援について自己紹介

自分さがし、自分づくり
「自分とは何だろうか」と考えたり悩んだりしたことはありませんか?
自分さがし、自分づくりは、思春期の大切な課題です。自分らしさを大切にしながら、社会と折り合いをつけ、社会のなかに自分の居場所・役割を作っていきます。
「自分とは何か」をどのような言葉で表すことが出来ますか?
自分の得意や取り柄で表現できると、それを伸ばすことでみんなに認められ、自分の居場所や役割も見つけられ、さらにその役割を果たせるように努力していきます。

【ワーク1】では、「今の自分で出来ること」「少し努力すると出来ること」「たくさんの努力が必要なこと」をいろいろな課題でみんなと一緒に確認しました。すべてが同じだった人はいませんでした、それぞれに個性「こころのかたち」があり、それを知ることが出来ました。そして、少しの後押しがあれば出来ることがたくさんあることも体験しました。
自分にも出来ることがあると気づくことは、挫折や絶望を乗り越えていく大きな力になります。

ストレスを体感してみる
行動を起こすことは、ストレスを伴うものです。それが小さな一歩でも勇気がいるものですね。
でも、ストレスってどんなものなのでしょうか。

【ワーク2】では、ストレスを体感してみました。
2人がそれぞれゴムひもの両端を指でしっかり持って、少しずつ距離を広げていきます。弛んでいたゴムひもが徐々に引っ張られ、その緊張が指を通して感じられます。さらに距離を広げると、ゴムひもの緊張から指を離れてしまうのではという恐れの気持ちが生じてきます。このように、今、自分が「ストレスを感じている」とわかると、毎日の生活でも、ストレスとうまく付き合うことが出来るようになります。

2人の間でゴムを引っ張る

心理カウンセリングはこんな感じ
吉野弘氏の詩「夕焼け」にこんな一節があります。

  二度あることは と言う通り
  別のとしよりが娘の前に
  押し出された。
  可哀想に。
  娘はうつむいて
  そして今度は席を立たなかった。
  次の駅も
  次の駅も
  下唇をギュッと噛んで
  身体をこわばらせて。


「別のとしよりが娘の前に押し出された」という「出来事」に対して、「席を立たなかった」という「行動」をした結果、「下唇をギュッと噛んで身体をこわばらせて」という「ストレス反応(身体と感情の反応)」が起こりました。
この「行動」と「ストレス反応」が、外に現れた「こころのかたち」だとすると、それをもたらしたのは、「出来事に対する受け止め方」(内側のこころのかたち)ということになります。
カウンセリングでは、この「こころのかたち」に少し変化をもたらそうとします。このような方法を認知行動療法とも言います。
この「行動」や「受け止め方」を変えるのも勇気のいることですね。そんなとき、人を信じる力、自分を大切にできる力が、大いに役立ちます。
そこで、自分を大切にできる力を回復する方法を【最後のワーク】で一緒にしました。

さいごに
こころのかたちはみんな違っていて、それは自分らしさでもあります。
自分らしさを大切にして幸せに暮らしていくヒントがカウンセリングにはたくさんあります。
そんな心理カウンセリングをみなさんと一緒に学びたいと思います。

【詩の引用】 吉野弘「夕焼け」 (詩集『幻・方法』所収。初刊は1959年。現在は『吉野弘詩集』 角川春樹事務所 (文庫)1999 などに所収)

  報告:河瀬 雅紀 (2017/8/6 OC模擬授業より)  


Posted by 京都ノートルダム女子大学心理学科 at 06:23さいころ講座
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