現代人間学部 心理学科

#7 人の印象は何によって決まる?― 対人関係の心理学 ―

2017年09月22日

はじめに
日常生活の中で、私たちはたくさんの人と出会い、関わりをもちながら生活をしています。
友人や担任の先生など、身近な人を思い浮かべ、その人に初めて出会った時のことを思い出してみてください。
皆さんは、その人に対して、どのような印象を抱いたでしょうか?

私たちは、初対面の時など、相手に関する情報や手がかりがほとんどない場合でも、「明るくて優しそうな人」「クールで近寄りがたい人」など、相手のパーソナリティを推測したり、親しみやすさや信頼できるかどうかを判断したりすることがあります。
では、こういった他者に対する印象はどのようにつくられるのでしょうか。

少ない手がかりからでもつくられる印象
印象形成とは、特定の他者に関する情報をもとに、その人についての全体的印象を形成する過程(山本・原,2006)であり、対人認知の重要な側面の一つだといわれています。この印象形成過程について、初めて理論化を試みたのがアッシュ(Asch,S.H., 1946)です。
アッシュは、特性語のリストを使って、興味深い実験を行っています。模擬授業では、アッシュの実験と同様、いくつかの特性語を手がかりにして、その人物がどのような人かをイメージしてもらいました。

アッシュの実験から分かったことは、大きく3つあります。
1つ目は、少しの手がかりしかなくとも、その人物についていきいきとした印象がつくられることです。今回の模擬授業でも、たった数個の特性語しか手がかりがなかったにもかかわらず、人物像がリアルにイメージできる、具体的な記述をしてくれた人がいました。
2つ目は、その人の全体的印象に大きく影響する情報とそうでない情報とがあることです。特性語のうち1つの言葉が違うだけで、その人の印象が大きく変わることを、データとともに紹介しました。
さらに、情報が与えられる順序によって、その人物に対する印象が変わることも報告されています。

#7 人の印象は何によって決まる?― 対人関係の心理学 ―
 特性語からイメージされる人物像は?

対人認知の歪み
私たちが他者に抱く印象は、どの程度正確なのでしょうか?私たちには、他者の性格をさまざまに歪めて見てしまう傾向があります。
その代表的なものは、ステレオタイプです。

ステレオタイプとは、たとえば、「女性だから…だろう」「職業が〇〇だから…だろう」というように、性別や外見、職業など、ある社会的カテゴリーに入る人たち一般に関して、人々が抱いている固定観念のことを言います。
普段、あまり意識することはないかもしれませんが、これまでの研究において、身長の高低や顔立ち、学歴などの違いによって、人物の印象が異なることが明らかにされています。
#7 人の印象は何によって決まる?― 対人関係の心理学 ―
 身長についてのステレオタイプ研究を紹介

このようなステレオタイプが形成される背景の一つに、情報選択効果があります。
他者を判断する情報の中には、自分のステレオタイプに当てはまる情報もあれば、当てはまらない情報もあるはずですが、私たちは一般的に、自分のステレオタイプと一致する情報に注目し、ステレオタイプに沿った印象を形成してしまう傾向があります。

ただし、同じ人物を観察したり、ある人物について同じ情報を耳にしたりしても、人によって形成される印象が異なることがあります。
たとえば、ある人物について「おとなしい人」だと聞いた時、Aさんは「口数が少なく消極的な人だろう」と推測し、Bさんは「穏やかで誠実な人だろう」と推測するような場合です。
このように、ある特性を持っていることが分かると、それらに関連する別の特性ももっているはずだという推測がなされることがありますが、これは、人が、個人的な経験や知識に基づいた「暗黙の性格理論(implicit personality theory)」を持っていることを表しています。
このような個人の信念体系は、すべてが誤りであるとは限りませんが、しばしば対人認知を歪める原因となります。

他者を理解するために大切なこと
これまでみてきたように、他者の印象をつくりあげる際には、自分自身のこれまでの経験や知識、価値観などが反映されるため、さまざまな歪みが生じます。
ただし、いくつかの研究において、相手のことをできるだけ正確に理解しようという強い動機があれば、歪みが修正されたり防がれたりすることも報告されています。

模擬授業の最後には、他者を理解するために大切なこととして、以下の3点をお伝えしました。
 1.他者をみるときに生じやすい歪みや、歪みが生起するメカニズムを理解すること
 2.先入観にとらわれず、できるだけ相手をしっかり理解しようと努めること
 3.自分はどういう「暗黙の性格理論」をもっているのか、
   どういう人を好ましく思い、どういう人を苦手だと思うのかなど、自分自身を理解することも大切


今回の模擬授業では、心理学におけるこれまでの研究をいくつか紹介しましたが、触れることのできなかった知見や、まだ解明されていないこともたくさんあります。
関心をもたれた方は、これから、ぜひ一緒に勉強しましょう!

【関連文献】
Asch, S. E. 1946 Forming impressions of personality. Journal of Abnormal and Social Psychology, 41, 258-290.
土田昭司 2001 対人行動の社会心理学―人と人との間のこころと行動― 北大路書房
山本眞理子・原奈津子 2006 セレクション社会心理学6 他者を知る―対人認知の心理学― サイエンス社


報告:尾崎 仁美 (2017/9/10 OC模擬授業より)



Posted by 京都ノートルダム女子大学心理学科 at 20:28│さいころ講座

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